社長の犬「クラタン」
私の勤めているA工場には犬が飼われている。社長が飼っている犬だ。これからその犬の話をしようと思う。
社長の犬の名前はクラタン。犬種はボーダーコリー。社長のお父さんの話によると2021年で飼い始めて8年になるという。インターネットで調べてみると今のクラタンは人間の年齢で48~51歳らしいことが分った。私も今年で50歳になるのでお互いの年齢が近いということを知るとクラタンに親近感をもった。
私がA工場で働く前のクラタン情報は主に社長のお父さんからのものである。社長のお父さんはA工場の前社長で体調不良が原因で引退、その後、現社長が後を継いだそうだ。社長職を引退した後も社長のお父さんは様子を見がてら工場内を掃除したり、仕事を手伝うため工場に出勤していたらしい。
そして8年前に現社長が子犬のクラタンを工場で飼い始めたのだという。社長のお父さんが現社長に聞いたところによると、クラタンを工場の番犬にするために連れてきたと話したそうだ。
クラタンの身の上話をするときの社長のお父さんの様子からクラタンへの愛が感じられた。
今日の朝のクラタン
クラタンは朝礼前に社長によって中庭に出される。想像だけれどクラタンは一晩犬用ゲージにしまわれているので、クラタンに排泄させるためだと思われる。
工場の全体朝礼後すぐに社長含めた役員の打ち合わせが行われる。その後にクラタンは中庭から工場内に入れられ、事務所入り口前で社長に餌をもらって食べるのが毎朝のルーティーンになっている。
全体朝礼後、私は自分の作業場にあるゴミ箱のゴミを捨てるため、中庭にゴミ袋を取りに行きスチール製のドアのノブを回すと、5㎝程のドアの隙間からクラタンが顔を現した。
私はクラタンが工場内に入らないようにクラタンの顔に手を寄せ、ドアから遠ざけてから中庭に出た。そのままゴミ袋がストックされている棚の前でゴミ袋を取り出そうとゴソゴソしていると中庭のドアが開いた。
ドアの方に顔を向けると、工場の中から中庭に入ろうとドアを開けたB君の前に立ちはだかるクラタンの姿があった。B君はクラタンを見下ろして「ダメだよ~」と言いながら立ち止まり困っていたようだが、クラタンはB君とドアの隙間から工場内をジッと見つめたまま身動き一つしない。
そんな状況が1分くらい続き、クラタンに根負けしたB君が自分の身体を後ろに引くと、クラタンは堂々と工場内に入っていった。クラタンはB君に気迫で勝ったように見えた。